アメリカンウイスキーと言えば何を連想しますか?
味が濃くて荒々しく、西部劇でカウボーイが飲んでいる姿を私は連想してしまします。
黒いラベルでおなじみのジャックダニエル。
小栗旬がCMで飲んでいたメーカーズマーク。などが人気のアメリカンウイスキーですよね。
スーパー等で手軽に手に入れることができます。
世界5大ウイスキーの1つのアメリカンウイスキーは種類が多く、バーボンウイスキー、テネシーウイスキー、ライウイスキー、コーンウイスキーなどに分類されます。
アメリカンウイスキーの歴史は、スコッチアイリッシュ(スコットランドやアイルランドからの移民)が造り始めたと言われ、色々な戦争と波乱の歴史を歩んできました。
話はアメリカ合衆国の設立前に遡ります。
目次
アメリカンウイスキーの歴史
ヴァージニア植民とトウモロコシの使用
1584年 イギリスがヴァージニア植民を開始。アメリカンウイスキーは東海岸で造り始めたと言われています。
当時はライムギや大麦などを原料としていました。
スコットランド移民の牧師であり、バーボンの祖とされるエライジャクレイグがトウモロコシでウイスキーを造り始めます。
ウイスキー戦争とバーボンの誕生
1794年 アメリカ独立戦争で財政難に陥ったアメリカ政府が、入植した農民の自家製ウイスキーに税金を課します。
これに農民は猛反発し、1794年に最大の暴動、ウイスキー戦争が勃発しました。
ウイスキーを愛する農民は税金から逃れるため、当時まだ支配があまり及んでいない地域、ケンタッキー州やテネシー州などの西部地区へと移住します。
そこで、トウモロコシとライムストーンウォーターに出会い、バーボンが誕生したとされています。(ライムストーンウォーターは後述で説明します)
南北戦争から第一次世界大戦まで
1861年 南北戦争の前線基地だったケンタッキー州とテネシー州。
戦場では消毒薬などとして使用するウイスキーが必需品でした。
さらに、戦後は北部の工業資本により、ウイスキーの産業化が進みます。
1866年ジャックダニエルが政府登録第1号蒸溜所といて発足。
1914年 第一次世界大戦が勃発。
1917年 食糧用穀物確保のため、ウイスキー生産が制限され、穀物を使うウイスキーへの風当たりが厳しくなり、禁酒運動が盛り上がります。
禁酒法
キリスト教の影響もあり、飲酒に対し嫌悪感を持つ人が多かった。
19世紀半ばから禁酒運動が盛んになり、各州で次々と禁酒法が成立。1920年にはアメリカ全土で施行される。
禁酒法で酒の製造・販売・移動が禁じられたことで、多くの蒸溜所が閉鎖へと追い込まれました。
しかし、飲酒そのものは禁じられなかったり、禁酒法施行まで1年間の猶予期間があったため、民衆は大量の酒を買いだめすることができました。
これにより国内の酒の消費量は激増しましたが、密輸や密売、粗悪品が横行したため、禁酒法はザル法とも呼ばれています。
1933年禁酒法が撤廃。
さまざまな転機を乗り越え、アメリカンウイスキーは育まれたのです。
アメリカンウイスキーの定義
1. 穀物を原料に、アルコール度数95%以下で蒸溜。
2. オークの樽で熟成させ、アルコール度数40%以上でボトリングしたもの。
スコッチウイスキーと比べると、甘み・香りともに強く、テネシーウイスキーよりもバーボンの方がその傾向を強く感じます。
ウイスキーが苦手という方が、アメリカンウイスキーを飲むと美味しく感じるのは、トウモロコシ等の甘み、バーボン特有の製造過程からきていると思います。
アメリカンウイスキーの種類と特徴
種類 | 原料の規定 | 蒸溜・熟成の規定 |
バーボンウイスキー | トウモロコシを51%以上使用 | 160プルーフ以下で蒸溜し、内側を焦がしたオークの新樽に125プルーフ以下で樽詰めし、熟成させたもの。2年以上熟成させたものは「ストレート」を名乗れる。 |
テネシーウイスキー | トウモロコシを51%以上使用 | テネシー州で造られていること。チャコールメローイング製法で造られていること。その他はバーボンと同じ。 |
ライウイスキー | ライムギを51%以上使用 | バーボンと同じ。 |
ホイートウイスキー | ホイート(小麦)を51%以上使用 | バーボンと同じ。 |
モルトウイスキー | モルト(大麦麦芽)を51%以上使用 | バーボンと同じ。 |
ライモルトウイスキー | ライモルト(ライ麦麦芽)を51%以上使用 | バーボンと同じ。 |
コーンウイスキー | トウモロコシを80%以上使用 | 160プルーフ以下で蒸溜したもの。古樽か内側を焦がしていないオークの新樽に125プルーフ以下で樽詰めし、2年以上熟成させたものは「ストレート」を名乗れる。 |
ブレンデッドウイスキー | 上記のストレートウイスキーを20%以上使用し、それ以外のウイスキーかスピリッツ(蒸溜酒)をブレンドしたもの。 |
バーボンウイスキー
原料はトウモロコシが中心
バーボンとスコッチには、原料や作り方に多くの違いがあります。
スコッチのモルトウイスキーはモルト(麦芽)のみで造られますが、バーボンの主原料はトウモロコシです。
そこにライ麦、小麦、モルトを加えます。
バーボンの原料穀物の構成比率はマッシュビルといい、蒸溜所ごとに異なります。
ほとんどがケンタッキー州で造られています。
ライムストーンウォーター
ライムストーンと呼ばれる石灰岩層を通り抜け、ややアルカリ性の硬水という特徴を持ちます。
この水が、クリアな味わいをもたらします。
サワーマッシュ方式
ライムストーンウォーターはややアルカリ性のため、糖化や発酵がしにくい特徴を持ちます。
そのため、蒸溜の際に出る酸度の強い廃液を加えて調整しています。
バーボン樽
バーボンで使用する樽は、バーボン法で細かく規定されています。
例えば、内側を焦がしたホワイトオークの新樽しか使うことが許されません。
こうした厳しい規制があるのは、5大ウイスキーの中でもアメリカだけのようです。
こうした厳しい規制での樽熟成が、バーボン独特の香と力強い味わいを生み出しています。
テネシーウイスキー
法律上はバーボンに分類されていますが、テネシーウイスキーと名乗るには条件が2点あります。
1. テネシー州で造られていること。
2. チャコールメローイングの工程を経ること。
チャコールメローイング
蒸溜直後の原酒を樽詰めする前に、サトウカエデの炭でろ過する工程を言います。
3mほどの木製容器に微粒炭を敷き詰め、そこに原酒をくぐらせる。
これによって原酒の荒々しいフレーバーが取り除かれ、口あたりのやわらかいメローな味わいが生まれます。
アメリカンウイスキーのおすすめ銘柄
ジャックダニエル ブラック(old No7)
世界売上トップクラスのテネシーウイスキー。
創業者のジャスパー・N・ダニエルは幼少期から働いた蒸溜所を13歳という若さで譲り受け、1866年、16歳の知己に自分の名を付けたウイスキーの販売を開始。テネシー州のリンチバーグに政府公認第1号の蒸溜所を設立した。
敷地内の洞窟から沸くミネラルの多い水、高めのトウモロコシ比率、自社で焼く木炭で1摘1摘時間をかけてろ過することが、甘みやなめらかさ、フルーティで雑味のない風味を造っている。
主力製品はブラック。華やかな香りとすっきりとしたテネシーウイスキー独特の味わいが、テネシー・ティーとも形容される。
ジェントルマンジャック
ジャックダニエルを、よりなめらかにした味わいのテネシーウイスキー。チャコールメローイングを2度行うという手間のかかった逸品。
磨き抜かれた酒質はハイボール・ストレートどちらで飲んでもなめらかでスムース。ブラックと飲み比べればその違いを実感できます。
フォアローゼス
妖艶な香りに酔いしれる薔薇のバーボン。2002年にキリンビールが事業権を獲得。
品質への徹底したこだわりと科学と経験を融合したこまやかな造りは日本のものづくりの心を思わせる洗練されたウイスキー。
フォアローゼスのマッシュビル(ウイスキーの穀物配合のレシピ)は、コーン比率が高めのものと、ライムギ比率がやや高めのものの2種類。
主原料と同様、味わいを左右すると言われる酵母も、タイプの異なる5種類を使用。これら2つのマッシュビルと5つの酵母を組み合わせ、10種類の原酒を造り分けている。多様な香りの原酒を混合するのが、他のバーボンにはない個性と言えます。
アメリカンウイスキーは戦争と波乱の中で育まれてきた歴史や、トウモロコシの甘みと独自の製法による力強い風味からか、無骨で力強く荒らしいと良く表現されます。
しかし、その味は繊細で飲みやすく、風味の強さと甘みから他のウイスキーよりも女性が好む印象もあります。
バーボンの赤み掛かった色のような夕陽を背に、荒野を駆け巡るカウボーイのような情景を思い描くことができる、他の大陸にはない素晴らしいウイスキーだと私は思います。
【参考文献】ウイスキー入門 著者:土屋 守 様